倒産（Part2）【2019-06-29更新】 | 調布の不動産のことならサイトーハウジング

その社長さんの会社は倒産することとなりました

原因を一言で説明するのは難しいのですが
「パーソナルコンピューターが普及する」というのは間違っていませんでした
「ウインドウズ９５」の発売とともにパーソナルコンピューターは爆発的に売れ出し
日本において１９９０年代初期２００万台前後だった出荷数は９５年には５７０万台９６年には７５０万台を超え出荷金額は１兆円を超えていきます

その後２０１０年代からはスマートフォンの普及と入れ替わったというわけですが
パーソナルコンピューターの普及と同時にソフト開発会社が数多興ったのです
用途も「ビジネス」より「ゲーム」が強かったのでしょう
「ビジネスソフト」が主流だった社長さんの会社が倒産するのにさほど時間はかかりませんでした

賑わっていた店舗からは商品が消え
従業員も含めて人が消えていきました

莫大な借金が社長さんを襲います

豪邸はもちろん銀行の差押を受けます
その後競売にかけられ人の手に渡ります
数台の高級車はもちろん家財や高級洋酒も消えていくのでした

ドラマとかで見る赤紙ではなく「差押物件標目票」という紙が貼られます
現代とは違いその頃の動産執行には執行官の「お抱え道具屋」という人が執行現場に来て
様々なものに値段を付けて買い取っていきます

そこで私が頼まれたことは
「どうしても人手に渡したくないものがあるので道具屋に扮し買い取って欲しい」
という依頼でした

なぜ私が行かなければならなかったのか
うちの社長曰く「何事も勉強だから行ってこい」とのこと

あとで知るのですが
その日社長は銀行主催のコンペだったそうです
しかも相模湖にあるゴルフ場で

約束の日時に豪邸へ向かいました
久しぶりに見た光景は以前お邪魔したときのそれとは別物でした
駐車場にはトラックと黒塗りの高級車が無造作に置いてあります

運転手なのか厳つい人相の人がタバコを吸っています
きれいに引かれていた駐車場のラインとは全く関係なくトラックを停めています

玄関へ入ると細身でダンディだった社長さんは痩せ細って頬は痩けていました
「宜しくお願いいたします」と
他人のふりをしているのでしょう

いつも玄関から見ていた２０畳ほどの和室に通されます
部屋へ入るとスーツを着た執行官らしき人がいました
その隣には駐車場にいた厳つい人が良い人に見えるほど
Ｖシネマでしか見たこと無いような怖い顔をした人が座っています

２０代の若造には明らかに場違いな空間なのです

勧められるままにその人の向かいにある座布団に座ります
ほどなく執行官が話し始めました

「それでは始めます」
「本日はお二方で値段をつけてもらって高い金額を提示した方が権利を手にします」

えっ！？

うちの社長から聞いていたのは
「執行官の様子見ながら１５万くらいで話つけてこい簡単な手続きだから」
でした

念のため２０万円渡されてきましたがそのお金も目の前の社長さんのものだったようです

執行官は続けます

「あちらが品物です」
指さす和室の隅の方を見ると何やら積んであります

「どうぞ始めてください」

始める？何を？

怖い顔をした人はあぐらを解いて立ち上がりその品物の方へ向かいます
「どうぞ」
執行官がこちらに手のひらを見せて促します
少し笑っているように見えました
何か見抜いているような目でした

たぶん足は震えてもつれていたと思います
品物を査定しろということのようです
何をどう見たのか全く覚えていません
数分後執行官の

「それでは金額の提示をお願いします」
の言葉で我に返ります

小さくなった社長さんは「頼んだぞ」という顔でこちらを見ています
目は真っ赤に充血していました。

僕は一体何をどうすれば良いのでしょうか。

 
つづく