倒産（Part３）【2019-07-08更新】 | 調布の不動産のことならサイトーハウジング

一体何が始まるのかわからずに青ざめている私に執行官が言います

「それでは金額をどうぞ」
手のひらがこちらを仰いでいます

えっ！？
自分から金額提示するのか？

ここで口に出した数字より相手が高い数字を言ったらどうなるんだ？
自分が先ほど見た品物が今になって頭に浮かびました

「どうしても人手に渡したくない物」とは何だったのだろう
アルバムのような物だったり中身のわからない箱だったり
仏壇があった・・・
立派な仏壇が一番奥に壁のように立っていました

それだ
きっと仏壇だけは手放したくないのだろう

そんなことを考えているところにもう一度
「さあ金額をどうぞ」

「じ・・・じゅうご・・・１５万円で」

なぜ「で」を付けたのかはわかりません
決めてこいと言われていた最高額を言ってしまいました

すると怖い顔をした人は「１５万５，０００」とドスのきいた声で言いました

あれ？

血の気が引いて社長さんの顔を見ることが出来ませんでした
自分の一言で大切な仏壇を人手に渡してしまうことになってしまった
申し訳なさで泣きそうです

「いかがしますか？」

執行官はこちらを見ています
続けて
「降りますか？」

降りますか？ってポーカーじゃあるまいし
ポーカー？
もしかしてこれは競っていくものなのか？
良かった
まだ望みがあるのかもしれないと思い

「１６万円」
と言ってみました

「いかがしますか？」
今度は怖い顔の人に向かって言っています

やっぱり競りなんだなと思っていたところに

「１７万」という声が
執行官はこちらに首を向け直します

待てよ
このまま順番に金額を言っていくと
自分が１８
怖い顔の人が１９
自分が２０と言って
怖い顔の人がそれ以上の数字を言ったら結果はおしまいだ
そう思ったらまた身体が震えだしてきました

うちの社長は何を根拠に１５万円と言ったのか２０万円までに決まるのか
頭の中はグルグルです

「１８万円」
考えるより先に口が動いてしまいました

「１８万５，０００」
かぶせるように言ってきた数字は５，０００円刻みになりました

執行官が話を挟みます
「口にした金額は今この場において現金にてお支払い頂きます」
なぜこっちに向かって言ってくるんだ？

そもそも他人の仏壇にそんな金額出せるのか？
緊張も極限を過ぎると冷静になれるものらしいです

そろそろ上限だな２０万円で決まるなと
そんな風に思えるようになりました

「１９万円」

自分の言葉に相手は即答してきません
一呼吸置いて怖い顔の人が

「１９万３，０００」
３，０００円刻みになりました

やはり２０万円以上はつけてこないんだ社長の考えは正解なんだな思いました
面倒臭いし早くこんな状況から脱したいという思いから
「２０万円」
元気よく言ってしましました

すると

「２０万５，０００」

はぁ！？

終わった・・・

社長さんは下を向いたまま真っ赤な目でこちらを見ています
眼球だけが上下に動いています
何が何でも落として欲しいという思い
数字を上げてくれという意味なのでしょう

預かったお金の２０万円を超えてしまいます

執行官がこちらを見て何か言いそうになっています
もうお金を持ってない
お財布すら持ってない
持っているのは自動車の普通免許証だけ

そうだ
免許証入れにいざという時の為用に１万円札が１枚入っている

「２１万円」

これを超えたら本当に終わりだ
冷や汗がドッと出た

怖い顔した人は立ち上がりあっさり部屋を出て行きました

１万円札２０枚
小さくたたまれた１枚を加えて２１万円を執行官に渡しました

仏壇を含めた物たちの所有権は私の所へ

執行官も怖い顔の人も帰って行きました

社長さんは泣いています

「ありがとう」

私は「どうしても人手に渡したくなかった物」は何か聞きませんでした
帰り道で見た相模湖がやたらとキラキラしていたことを覚えています。

つづく