ご遺体【2019-08-27更新】 | 調布の不動産のことならサイトーハウジング

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この仕事をしているとこの様な場面に出会います

夏の日でした
あるアパートのご近所の方から連絡が入りました
「玄関の扉が開いていて中に女性が倒れています」
電話で告げられたアパート名と部屋番号から急いで契約者を確認します
と同時に家主さんに連絡を入れ警察にも電話を入れます

そのアパートは事務所から車で１０分で着く距離でした
車中で気になっていたのが通報者の「女性」という言葉でした
部屋の契約者は一人暮らしの男性だったからです
アパート近くに車を停め部屋に向かいました
確かに玄関が３０㎝ほど手前に開いています
間取りは１K
玄関入ると６畳の和室に向かう小さな廊下があり
右側がユニットバス
左側にユニットキッチン
もともとはお風呂の無いアパートにユニットバスを設置したので押入が小さくなっている部屋です
築年数は４０年を過ぎていましたが家賃を低く抑えていたので６世帯全て入居済みです

開いた玄関の隙間から契約者の名前を呼んで室内を覗き込みます
廊下から和室に向かって前向きに人が倒れています
「女性が倒れています」
近所の方がそう言った理由がわかりました
黒のストッキングが膝の辺りまでめくれています
それは「黒のストッキング」に見えたのです

警察が到着しました
「あんたは？」
「不動産業者です」
「家主さんは？」
「こちらに向かっています」
と言いかけたところで軽トラックで家主さんが到着しました
ご夫婦でみえた家主さんは車から急いで降りてこちらに向かって小走りで来られます
開け放たれた玄関から中が見えたのでしょう
奥様が両手で口を覆い目を丸くしています
私はご主人の方へ首を振ると同時に掌を立てて見せて来ないように伝えます

「あの方達が家主さんか？」
警察の問いに頷きました
続けて倒れている人を指さし
「顔見ればわかるか？」
と私の顔を見ながら尋ねてきます
「はい」
というのも自分が案内し契約した人だったからです
「じゃあんたで良い」
警察に促され室内へ入りました
「黒いストッキング」に見えていたのは倒れている人の皮膚が腐食し
足先からお尻の下辺りまで黒くなっていたのでした
それで「ストッキングをはいた女性」と通報者には写ったのでしょう

全裸の男性でした

足首から下が廊下部分にあり
そこから上は和室に倒れ込む形になっています
「直立不動」の格好で倒れています
 

「顔見たら解るか？」
警察の方が再度尋ねてきます
「おそらく」
案内し契約したのが半年くらい前だったのでそう答えました
再度聞いてきた理由はすぐにわかりました

鑑識の方が身体を上向きにします
無数の虫が飛び立ち顔が露わになります
と言っても私たちが普段知る「顔」はそこに有りませんでした
しかし顔の輪郭や白髪の具合で彼とわかりました

その場で遺体を詳しく調べ始めます

外傷等不審な点は無いと言うことで
事件ではないという判断になりました

後に聞いた話では風呂を出てすぐに脳溢血で倒れたということでした

ご遺体が運び出されたあとの和室には
彼の身体の形に畳が腐って数センチ沈んでいました

人はいつか亡くなるものです
その時が病院なのか
または外で事故に遭うか
そして部屋で亡くなるかなのです

我々の仕事はそういう仕事なのです。

つづく